メタバースとは何で、どのように決済を変えるのでしょう?

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多くのイノベーションが実はサイエンスフィクションが元ネタだというのはとても面白いですね。モトローラのフリップフォンはスタートレックの通信機に基づいているのは有名な話です。しかし、除細動器のアイデアが研究所からではなく、メアリー・シェリーのフランケンシュタインから来ているというのを知っている方は少ないですね。

同様に、メタバースは、1960年代後半の小説、シミュラクロンー3に最初に使われている言葉です。このメタバースという言葉とアイデアは長年忘れされていましたが、Mark Zuckerbergがこのアイデアを世界のプレスに発表してからメタバースは突然注目されることになりました。では、メタバースとは何ですか?

Sunday Timesの記者、Hugo Rifkindの説明がわかり易いですね。「メタバースの一部とは、a)あなたがそこで交流でき、b)そこにあなたはいないのにまるで存在しているかのようなオンライン空間である」

BCG プラティニオンのKristi Woolseyは、メタバースを「ブラウザーかヘッドセットでアクセスできるバーチャルリアリティーとミクスドリアリティの世界の組み合わせで、人々が遠隔からリアルタイムで交流でき、体験できるところ」と表現しています。

Oculus Riftのようなヘッドセットと携帯型コントローラーで生成したバーチャルエクスペリエンスなどをご存じかと思います。携帯電話やタブレットも、服の「試着」や自分の部屋の隅に置いた時に新しい家具がどんな風になるのか見てみるなど拡張現実エクスペリエンスを享受するのに非常に実用的な機会を提供してくれます。

新しい没入型のエクスペリエンスを提供する市場には他にも多くの装置があります。例えば、360度の動作を反映させるゲーム機器や、人工の匂いを出すヘッドセット、コンバットゲームをプレイしている時に装着者に本当に痛覚を与えることができるスーツなどもあります。

ではアクセスしたら、メタバースでどんなことが起きるのでしょう?

今の所、メタバースを利用している活動は少なく、ほとんどがゲームか普通のエンターテイメントです。今トレンドになってきているのが人気の音楽イベントを開催して、アーティストがアバターとして観客の前でライブ演奏するというものです。この記事を執筆する時点でそういう音楽イベントで最も成功したのは、フォートナイトというゲームでライブコンサートをしたアリアナ・グランデで、7800万人のファンが視聴しました。

ふたつ目の大きな動きとしては、驚くべきことにバーチャル世界での不動産市場というコンセプトです。バーチャル世界を作り出している企業は、バーチャル空間を投機的な投資の一形態として見ている個人や、若者や技術オタク、そしてもしかするとお金持ちが集まる場を求める企業に空間を売ることができます。不動産投資家は、小売り店舗を「建設」してバーチャルショップに貸し出すことができます。アップエキュイティ( UpEquity )のような企業は既にメタバースでの住宅ローンの受付を始めています。まるで現実の不動産のように。

メタバースでもっとも成長しているのは、NFT(代替不可能トークン)の市場をアニメにしているもので、それが実体を有しているかのように容易に体験できます。ブロックチェーンで管理されることが多いですが、NFTは暗号通過とは違って、通貨となることを意図したものではなく、他人に対して価値があるかどうかはわかりません。初期の例としては、デジタルドレスのオークションの成功などがあります。2019年にダッパーラボ(Dapper Labs)により$9,500で売却され、購入者はそのドレスをデジタル的に「着用」し、拡張世界の町で最も格好の良いアバターになりました。

では、メタバースとはどのようなものなのですか?

ある程度、メタバースは、ユーザーの思考とメタバースに住む人たちの想像からなるものです。現実には、私たちは環境が生まれたばかりの状態にいて、業界全体がどのようにしたらユーザーエクスペリエンスがうまくいくのかまだ学んでいます。きっとこれからの5年間で帯域幅と計算能力に非常に大きな変化が起こり、今私達が見ている環境よりもっとリアルな環境が可能となることでしょう。

メタバースがより身近なものとなり、完全に新しい商業へと広がっていく実例を挙げます。

  • ウォルマートは、メタバースのコンセプトを2016年から利用しており、バーチャルリアリティーを従業員の教育とキャリア開発に使用しています。現在、ウォルマートの店舗では約17000台のVRヘッドセットがあり、百万人以上の従業員が新しいトレーニングにアクセスして難しいシチュエーションへの対応を訓練しています。会計についての「フライトシミュレーター」のようなもので、極端な顧客サービスのシチュエーションを安全に経験できます。
  • マイクロソフトは、遠隔地の同僚とのコラボレーションツールである「ホロポーテーション」を介してテレビ会議の利点をもっと享受できるようにしようとしています。テレビ会議は、交流する上で素晴らしい方法ですが、現実世界の環境からは距離があります。ホロポーテーションは、仮想世界のオフィスを訪問する約束をし、リアルタイムでリアルな人とのやり取りをし、文化的で実際的なエクスペリエンスで交流します。私達はTeamsのようなプラットフォームにこの技術が組み込まるのをすぐに見ることになると思います。
  • 大手化粧会社のシャーロットティルブリーは、メタバースの店舗を介してオンラインショッピングを拡充しました。メタバースの店舗では、品物を色々と見て、自分のアバターで試し、友達と一緒に店内を歩きながら買い物をしておしゃべりできます。気に入ったものがあれば買うことができ、品物は現実に宅配されます。顧客は、品物を見て、買い物をし、店員からアドバイスを受け、ライブイベントに参加し、チュートリアルを見て、メイクアップを試すことができます。
  • RFOXは、小売りとEコマースに特化した没入型メタバースプラットフォームです。RFOXにある店舗はデジタルアイテムの販売からスタートしますが、現実世界のデリバリー用のアイテムの販売にすぐに移行することができます。客として、あなたはバーチャルのフードコートに行き、現実世界でのピザデリバリーを注文することができます。ピザを待っている間に買い物をしたり、ゲームをすることができます。
  • 暗号金融サービスの銀行ライセンスとポートフォーリオを有するカナダのアクワイアラーであるリンクス(Lynx)は、既存の金融決済とインフラをメタバースのバーチャルコミュニティと融合させようとしています。リンクスは、プロの取引ビジネスが手掛けた方がよいような取引がメタバースで行われていることにすぐに気が付き、メタバースへ直ちに参入したので、業界で高く評価されています。

メタバースは決済業界にはどのように展開すると思いますか?

現在のメタバースは25年前最初にウェブブラウザが登場してきたときと似ていますが、数年のうちにもっと違ったものになるでしょう。もし2000年にナスダックで全てのドットコム企業に投資していたら、その中でも一番成功した企業に幸いにも投資していたとしても14年間で破産しています。初期の多くの企業は生き残れなかったものの、予想は正しかったことが証明されています。インターネットは全てのものを打ち壊し、多くの従来の実店舗型ビジネスを退場させ、普通では考えられないような形でパワーバランスを販売者から消費者にシフトさせました。

小売り決済業界では、メタバースが意味することはひとつです:オムニチャネルは更にもっと複雑になりました。新しいチャンネルが増えたというだけでなく、それがどんなものになるか誰も分からない新しいチャンネルが増えたということです。その結果、小売業者には最大限の即応性が求められます。ポイントの重要性は変わりませんが、その見た目、印象、機能は、人々がシームレスエクスペリエンスに抱いている考えに非常に素早く適合する必要があるでしょう。

アクワイアラーや、銀行、決済サービスプロバイダーは、最大限のフレキシビリティを持つことで自分たちの顧客がその投資のリスクを低減できるプラットフォームを必要とするでしょう。これは、インジェニコのAXIUMなどのよりフレキシブルなAndroidベースの店舗用端末へ移行するなどで簡単にできます。Androidでは、ユーザーエクスペリエンスをカスタマイズすることができ、新しいサービスを大掛かりな導入プロジェクトを行うことなく追加できます。これは、弊社の製品寿命の限りリスクを共有するというように、弊社のようなメーカーに対する期待も変わってきていることを意味します。物事の変化が速いなら、アクワイアラーは自分の端末が3,4年、または5年ほどで置き換わるとは仮定できません。弊社は、そのモデルをより低い一時費用と利用中のサービス、ソフトウェア、メンテナンスに対する経常費を合わせたものに移行することでこのリスクを共有します。このように、弊社は弊社の技術の寿命を可能な限り延長しようと努力しています。これは即応性や環境面でも望ましいことです。

しかし、最も重要なことは、これまでになかった決済方法や接客に対応するインフラを提供する必要があるということです。インジェニコのペイメント・プラットフォーム・アズ・ア・サービスは集中型クラウドベースのインテグレーションポイントを提供します。ワークフローに基づいているので、新しい決済モデルはハードコーディングを必要とせず、オンザフライで利用できます。それはどんな利用者にも開かれていて、弊社のライバル会社でも構いません。なので、弊社のエコシステムのメンバーは次に何が起ころうともフレキシブルに対応できます。

今は技術的にはエキサイティングな時代です。これまで同様、私達決済業界にいる者は対応に追われています。

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Ian Benn

Global Head of Strategy and Business Development at Ingenico

Ian Benn is Global Head of Strategy and Business Development at Ingenico. Previously, he has held a number of senior roles in the payments and technology industry including leading payments for FIS in EMEA and global marketing at Misys. He is also a qualified coach and mentor working with a number of start-up business leaders. Ian is a member of the Pennies Foundation Advisory board and author of books on outsourcing and successful proposal writing. Ian is a frequent industry speaker and blogger and is seldom short of an opinion.

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